高麗美術館研究所について

高麗美術館の館蔵品はすべて朝鮮の考古美術品であり、その数は1700点にのぼる。
種類は多岐にわたり、従って、これら館蔵品の調査研究には、考古学・美術史・技術史・民俗学などの立場からのアプローチが必要であり、朝鮮史だけでなく、中国と日本を含む東アジア諸地域の歴史に通じていなければならない。
創設者の鄭詔文氏は、すべての来館者が、陳列の美術工芸品を通して祖国の歴史と文化を正しく理解して欲しい、特に「同胞の若い人々」が祖国の風土と民族の生気を感得して欲しいと訴えた。
すなわち、高麗美術館を単なる古美術賞玩の場に終わらせたくない。陳列品の背後にある民族の伝統と文化、さらに生活の息吹を知る場にしたいというのが初代理事長の願望であった。

研究所の活動の基盤は、館蔵品の台帳の整備と一品ごとの調査表の作成、朝鮮民主主義人民共和国・大韓民国における考古美術品の展示施設および調査研究機関との交流、そして日本における同種の施設および機関との交流、である。鄭理事長が呼びかけた思いは、きっと多くの研究者を輩出することだろう。

高麗美術館研究所 所長 有光教一

【略歴】
ありみつ きょういち 1907年山口県生まれ。京都大学大学院在学中に慶州へ赴任。慶州壺杅塚・銀鈴塚などの発掘調査を指導、国立博物館開館に尽力。文化財専門審議会専門委員、奈良県立橿原考古学研究所所長などを経て、1988年高麗美術館研究所所長就任。京都大学名誉教授。 主な著書『朝鮮磨製石剣の研究』、『有光教一著作集全3巻』、『朝鮮古蹟研究会遺稿全4巻』ほか。
2011年逝去。
高麗美術館研究所の主な活動
・館蔵品の調査研究
・研究講座の実施
・国内外の展示施設および研究機関との交流
・研究紀要の発行
・朝鮮考古学、美術史、民俗学など図書資料の収集
高麗美術館蔵書の内容
Ⅰ 高麗美術館図書[鄭詔文氏蔵書+高麗美術館蔵書] 約14,000冊

朝鮮の美術工芸の美に魅入られ、それらの蒐集だけに留まらず、朝鮮文化と日本文化の関連性や相違など、朝鮮文化そのものの探求に情熱を注がれた鄭詔文氏(1918~1989年)は、歴史、文化、美術工芸、民俗、文学など幅広い分野にわたる朝鮮・韓国に関連する貴重書や絶版書を含め、多くの書籍を並行して収集された。

Ⅱ 有光文庫図書[有光教一博士寄贈] 約10,000冊

1988年の高麗美術館の開館まもなく、高麗美術館研究所・有光教一所長(京都大学名誉教授)から鄭詔文初代理事長に、蔵書の殆どを寄贈する旨を申し出られ、実現したもの。朝鮮及び日本(特に先生ゆかりの京都、奈良、福岡の資料)の考古学に関する書籍が数多く揃っている。

Ⅲ 姜仁求文庫図書[姜仁求・元韓国精神文化研究院教授寄贈] 約3,000冊

韓国精神文化研究院(京畿道城南市、現・韓国学中央研究院)の姜仁求教授[考古学]の蔵書を、上田正昭・高麗美術館館長との縁により、2004年に寄贈いただいたもの。 主として歴史資料や古文学資料などで、古文書研究や郷土史研究など、貴重なハングル資料が含まれている。